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なんやかんやでお互い恋人として過ごしてるロボヴェノが長時間ぐずぐずにセックスしてるだけの話です ロボカイの身体はフルで修復済&男根アタッチメントありの設定……

ヴェノムはCis MaleとしてもTrans Maleとしても読めるようにしたいな……と思って幅を持たせて書いたので、読み手の方の好きなように読んでもらえたらうれしいです(そのへんうまく表現できてなかったら……すまん!!!)

Synthesis


イリュリアの空がブルーからピンクの穏やかなグラデーションに染まる頃、街全体がにわかに目を覚まし始める。早起きな人々の足音、散歩の犬たちが戯れ合う鳴き声、開店準備を始める店のシャッター音……。
カーテンの隙間から見える朝の気配をぼやけた視界で認めながら、ヴェノムはまだ長い夜の中に溺れていた。
今この部屋に響いているのは早朝の賑わいでもなければ午後の穏やかな静けさでもなく、荒い呼吸とサーボモーターの音、そして金属と肉で出来た身体の持ち主が互いを求めてその身を打ち付け合う音だけだ。
「……んぅ……っ」
何度も身体を重ねるうちに、互いにパートナーの形を覚えてしまったかのようだった。
熱い粘膜がうねるヴェノムの内部を、精巧に形作られた人工の陰茎が背後から緩やかなリズムで擦り上げる。

……珍しく連休が取れたから、二人の時間をたっぷり取ろう。そんな理由を口にしたヴェノムとロボカイが昨夜体を重ね始めて、もう何時間になるのだろう。お互いに何度も達して、体力(……一方は電力と言うべきか?)も消耗しているはずだ。ヴェノムはもう腰を上げる気力も残っておらず、寝そべったままのの身体を機械の恋人にほとんど預けたままにしている。それでも、一度火のついた身体は甘い刺激を受ける度にシーツの上で震え、継ぎ目なしに与えられる快楽をもっと、もっとと求めていた。

身体の奥を甘やかに突き上げられ、浅く引き抜かれたかと思えば再び深くまで満たされる。その運動が繰り返されるたびに、ヴェノムのきつく閉じられた口元からは悲鳴にも似たくぐもった喘ぎが漏れた。声を抑えるいじらしい努力とは裏腹に、互いの結合部からは繰り返し吐き出された疑似精液が淫らな音を立てて零れ落ちる。
「……声、出シテモイインダゾ?」
耳元でロボカイの合成音声が低く、しかし深く優しい響きを含ませた声でそっと囁いた。今のヴェノムにとってはその鼓膜からの刺激だけで再び達しそうなほどだ。一体君はどこでそんな声色を覚えたんだ、と問いただしたい気持ちが脳裏を過ぎるが、今はそんな戯れあいをするほどの余裕もない。
「……もう、街の皆が……、起きている時間だろう……」
「ナンダ、ウッカリ聞カレデモシタラ困ルダロウッテ?」
いたずらっぽい含み笑いがロボカイの内蔵スピーカーから響く。
……と同時に、彼が動くのを止め……背中に感じる質量がぐっと重たくなるのを感じて、ヴェノムは静かに息を呑んだ。

首筋越しにロボカイが顔を覗き込み、ヴェノムの紅潮した顔を覆う髪束をそっと金属の指でよけ流す。眩しくないように光量が抑えられたアイランプは、何かを推し量るかの如く僅かに細められ、こちらをじっと見つめている──
「……外が喧シイ方ガ誤魔化セルッテ考え方も、アルトハ思ワンカ?」
なるほど。
下手に格好つけてはいるが、彼なりの不器用なおねだりなのだ……これは。
恋人の勿体ぶった振る舞いに可笑しさと愛おしさが同時に込み上げて、ヴェノムは思わず軽く吹き出してしまう。
「オイ、笑ウナッテ!!今イイ雰囲気ニ持ッテ行コウトシテル所ダッタノニ!」
「わ……悪い、つい…………っ」
くつくつと湧き上がってくる笑いを堪えようとしたばかりに、まだ繋がったままの下腹部の輪郭がぐっと強調されて、思わず身体が震えてしまう。

その僅かな反応をも、ロボカイの機械の瞳は見逃さなかった。
「……ヴェノム」
縋り付くかのようにぐっと平たい頬を擦り寄せて、機械の腕で柔らかなヒトの肉体をぎゅっと包み込む。普段は少しだけヒトより表面温度の低い彼の体温だが、今は興奮と長時間の稼働のせいだろうか……ヴェノムの体温よりも幾分熱を持って、暖かい。まったく、こういう時だけ子犬のように甘えてみせるとは。

閉じ切った窓を通して僅かに感じ取れる朝の気配は、時が経つにつれて賑やかさを増しているようだった。道路を急ぐ車ががたついたタイルを踏んで走る音も、追いかけ合って学校への道を駆ける子供たちの甲高い笑い声も、朝市の売り子が元気に今日の一押しの品をアピールしている声も……。あと一時間もすればこの生き生きとした喧騒は一旦の落ち着きを得て、昼の活気が訪れるのを待つしばしの静寂へと変わるだろう。
今しかない、という事か。

恋人の腕の中で身をよじらせると、ヴェノムはロボカイの平たい口元にそっと己の唇を寄せる。
最初は金属の唇のふちを優しくついばむように。次第にもっと深く、舌先でヒトの歯を模したプレートの列を一つ一つなぞり、上下の歯列を割り開くのを促すように優しく舌を差し入れていく。ただただ平たい金属の表面をなぞって遊ぶばかりのこの奇妙なキスを、ヴェノムは存外気に入っていた。
ロボカイもまた差し込まれたヴェノムの舌先を受け入れながら、その舌先を慎重に甘く噛み返し、角度を変えては相手を更に深く求めようとする。単なるヒトの真似事などではなく、彼ら自身が二人にとって最良だと思えるやり方を探るように。

控えめな唾液の水音と再び荒くなる呼吸、排熱ファンの回る音がそれぞれに熱を帯びていく。手持ち無沙汰になった互いの手が重なって、ゆるゆるとした腰遣いが再開されていく……どちらからともなく。
「ん……、っふ……」
風変わりな深い口付けを重ねながら、ヴェノムは昨夜から続く営みの中で自分の唇がすっかり乾いている事に気付かされる。私達はどれだけ長い時間、この行為に夢中になっていたのだろう?

存分に互いを貪り合った唇を離し、ヴェノムは浅く息をつく。ほんの数センチ先にあるロボカイの顔をまじまじと見つめると、刺激と興奮による過負荷のせいか、ほんの僅かにアイランプの光がちらついているのが見て取れた。彼が”盛り上がって”くる時、時折こんな反応を見せる姿をヴェノムは何度か目にしている。
「…………ナンダ、急ニジロジロト……いけめんスギテ惚れ直シタカ?」
からかうように笑うその言葉の奥には、彼自身の照れ隠しが混ざっているのが解る。微笑ましいものだ。
……睦事の中で見せる彼のこんな癖を知っているのは、本人を数に入れてもきっと私だけなのではないだろうか?ヴェノムはふとそんな事を思って、可笑しさと愛おしさ、仄かな優越感のないまぜになった笑みが唇に浮かぶ。確かに、私ばかりがこんな事を知っているというのも一方的に過ぎるのかもしれない。

「……私の声がそんなに聞きたいのなら……」
重ねられていた掌から、ヴェノムはそっと自分の指を引き抜いた。連結したパイプが整然と並ぶロボカイの首筋を、そっと誘うように指先で撫でる。
「君の手で、鳴かせてみせてくれ」
「………………言ッタナ?」
絡み合う視線の先で再びランプの光がちらつくのが解って、ヴェノムは自分の鼓動が逸るのを感じた。

***

「は、ぁ…………っ……」
深くまで己を満たしていたシリコンの性器が完全に引き抜かれて、ヴェノムの口からは熱を帯びた吐息がこぼれる。何度も中に吐き出されては掻き出される事を繰り返した人工の精液は、両者の下肢を汚しながら寝具に染みを残していた。もちろん、ヴェノム自身の汗や涙、淫らな体液も例外ではない。後始末の事は……今は考えない事にした。
繊細に動く機械仕掛けの掌が汗ばんだヴェノムの臀部にそっと指を這わせ、その曲線をじっくりとなぞっていく。
ロボカイの表情を伺わなくとも、彼の排熱機関が激しく唸りはじめる音を耳にすれば解る。彼の昂りもまた強まっているのだ。
「……後デ腰ガ痛イッテ泣キ言、言ウナヨ?」
「それは……今更だろう」
気遣いが下手だな、とヴェノムは苦笑しかけたが、腰に回された指に力が入るのを感じると、ごくりと唾を飲み込んだ。

脱力した身体がロボカイの手によってぐっと引き寄せられ、全身の中で尻だけが突き出すような姿勢へとやや強引に誘導される。淫らに汚され、次に与えられる刺激を待ち望んで疼く場所を、相手にまざまざと見せつけるような姿勢。
喉の奥から、微かな呻きが漏れた。
今更になってこんな姿勢に恥じらいを覚えるほど、初心な訳ではない。だが、普段よりも仄かな荒々しさを帯びた鋼鉄の恋人の振る舞いに、日頃抑えていたヴェノムのマゾヒスティックな願望が静かに、しかし確実に炙り出されてしまう。
……そんな欲望を、彼に知られたくはない。それと同時に、このはしたない望みを満たしてほしいとも、思う。

散々中に注がれた疑似精液をローション替わりにして、ぬるり、と再び熱いペニスの先が入り込んでくる。
「……ぁ、っ……」
この一夜に繰り返しロボカイの熱を受け入れたヴェノムの中は、何の抵抗もなくそれを呑み込んでいく。本人の意志とは無関係に、更に奥へ、奥へと誘うように筋肉が収縮して、張りつめた人工の性器を咥えこんでいく。もう、繋がっていなければ寂しいのだ、とでも言うように。
その肉壁の物欲しげなうねりを受けて、ロボカイもまた身体を震わせ、言葉を成さない喘ぎに似たノイズを漏らした。局部に埋め込まれた微細なセンサーたちがきゅう、と締め付けられるのを感じるたび、単なる性感だけではない処理負荷が増大する感覚を覚える。
今まではひ弱な人間の身体にペースを合わせようと努力してきたが、もう……制御できる自信がない。

何かのタガが外れたように、ロボカイの下半身が本格的に律動を始める。
先程までのゆるやかな動きとはまるで違う激しいリズムに、ヴェノムの全身は打ち震えた。
「!?待っ…、……んっ、くっ……ぅ……!!」
力強く腰を引き寄せ、自らの下腹部を打ち付けては先端のギリギリまで引き抜き、更にまた突き上げる。深く内部を抉るようなロボカイのそのストロークに、ヴェノムの思考は弾け飛びそうになる。熱を持った質量が身体の中の一番敏感な部分を的確に擦り上げるたび、膝が震え、全身の関節から力が抜けてしまいそうになる……だというのに、しっかりと腰を掴む手はそれさえも許さない。
どうにかなりそうな快楽の渦の中で、ヴェノムの手はくしゃくしゃのシーツを掻き抱き、紅潮して汗ばむ顔を必死に押し付けた。
もはや自分でも抑えきれない事が明白な淫らな喘ぎを、なんとか瀬戸際で食い止めようとして。

「オイ……鳴カセテミロッテ言ッタクセニ、ソレハズルインジャナイカ……?」
覆い被さるように上半身を傾けたロボカイが、ヴェノムのきつく結ばれた唇に背後から手を伸ばした。
しまった、と思う間も無く、乾いた唇の間を鋼鉄の指が割るように侵入してくる。
今にも零れそうになっていた唾液を潤滑油にした指先は容易に中へと滑り込み、下半身とは別の手段で、その身に痺れるような刺激をもたらした。
「んむっ……ぅ……!?」
滑らかに研磨された指先は、外側からはヴェノムの端正な顎先を支え、内側からは柔らかな頬の粘膜をゆっくりと愛撫する。
まるで先ほどのキスの舌遣いを、指先に替えてやり返すかのようだった。整然と並ぶ歯列と肉の際をそっとなぞり、奥まった場所にある敏感な舌先を指先で探り当て、甘く摘まんで弄ぶ。同時に、その身体全体を深くまで突き上げながら。
「んっ、……ふ、ぅあっ……!ぁ、あッ、ぁっ……!」
塞ぐ事を妨げられたヴェノムの口から、唾液と共に甘く高い嬌声が零れ落ちる。完全に快楽の中で蕩けきった、泣き声にも似た切ない喘ぎ。
その声は刺激を与えられるたびに糖度を増して、聴覚からヴェノム自身の熱をも高めていく……一度溢れてしまえば、その流れは止められなかった。

ようやく空中に解き放たれた恋人の甘い声に触発されて、ロボカイの回路の奥も今までにない熱を帯びる。
「……モット聞カセテクレルヨナ?」
震えるヴェノムの耳元に顔を寄せてそう告げながら、挿入の角度を変えて反応の良いポイントを更に責め上げる。普段の彼が発する落ち着いた深い声色からは想像も付かない淫らな悲鳴が上がって、ロボカイはここがヴェノムにとっての”良い所”である事を改めて認識した。
深いストロークの合間にとんとんとノックするように動けば泣いて震え、撫でるように鈴口を押し付ければ苦しげな喘ぎと共に物欲しそうな腰が揺れる……同じ場所を刺激しても、無限に違う反応を見せて乱れるその痴態に、ロボカイはすっかり魅せられていた。
「ぁんッ……!ふ、ぁ……んっ…ぁ……!」
口腔内に留められたままの指先は、依然として唾液を絡めながらヴェノムの内部を探り続ける。異物から逃れようとしているのか、それとも甘えて吸い付こうとしているのか判然としない動きでヴェノムの舌が絡みつき、繋がるロボカイの下半身を更に熱くする。そのまま上顎の複雑な曲面を指先でなぞればびくりと汗に濡れた背筋が跳ね、中を締め付ける力がぎゅっと強くなるのが感じられた。思わずロボカイの腰もがくりと震え、スピーカーから不随意な呻きがノイズになって零れ落ちる。

……可愛い。愛おしい。もっと乱れてほしい。

人間の概念で言語化するのであればきっとそんな感情だろう。自分の回路を駆け巡る欲望が目まぐるしく新しい形に更新されていく事に、ロボカイは眩暈にも似たぐらつきを覚えた。

唾液に濡れた指先が、すっかりひとつの性感帯と化したヴェノムの唇からそっと引き抜かれる。
「……ぁっ……」
この世で最も素朴な口枷から解放された事への安堵、それと僅かな失意。それらの入り混じった喘ぎを漏らしながら、脱力したヴェノムの半身がシーツの上に崩れて、荒い息を継いだ。
「ッ……気持チ良イカ?ヴェノム……」
絶えず腰使いを続けながら、低く響く声でロボカイが囁く。
「あッ……ぃ……良いッ……気持ち、いっ……」
喘ぎ続けて掠れた声で、荒い呼吸の合間に切れ切れに言葉を紡ぐ。今のヴェノムにはもう、冷静ぶった態度を取り繕う余裕などどこにもなかった。
焦点の合わない瞳は快楽による涙に濡れて、淡い色の睫毛を湿らせる。
気が付けばカーテンの隙間から淡い光の筋が差し込んで、ベッドの上を明るく照らしていた。窓の外では日が高くなりつつあるのだろう。
外の世界はまだ、こんなに乱れた二人の事を無視してくれるほどに、忙しなさを保ってくれているだろうか……?

その途端、内部の“良い所”をペニスの段差で強く抉られて、ヴェノムのひときわ艶やかな嬌声が上がる。
「モット良クシテヤルカラ……」
ロボカイがぐっと背面から体重をかけ、ヴェノムの両手を強く押さえ付けた。
「ワシの事ダケ考エテロ……、ナ?」
苦痛を感じるほどには至らないが、離さないという意思が強く伝わってくる、確かな束縛。……その腕は見た目こそヴェノムのものよりずっと細くて華奢な造りだが、彼が本気を出せばおそらく抵抗はできないだろう。相手に自らの全てを委ねるこの状況に、ヴェノムの被虐心ははしたなく甘い痺れを覚えて、強烈な酔いに溺れてしまいそうだった。

──そのままの姿勢から突き動かされる、全身の重みが伝わる深いピストン運動。
「あっ……ぁ、あッ……!!はぁッ……ん、あッ……」
身体の奥まで質量が伝わって、ひと突きひと突きを穿たれる度に身体が仰け反って、跳ねる。
押さえ付けられた腕に伝わる揺さぶりまでもが快感となって脳髄に駆け巡り、激しいオーガズムへと変わってヴェノムの思考をどろどろに溶かしていく。
形の良い尻にぴったりと金属製の下腹部が密着して、きつく張り詰めた人工の陰茎がヴェノムの熱い内部を目一杯に満たした。それは今与えられる最大限の快感を刻み込もうと、身体の中で更に存在感を増す。エラの張った雁首は動くたびに熟れた内壁をねっとりと擦り上げ、奥の弱くて敏感な場所に柔らかな亀頭で口付けするように、円を描いてぐりぐりと愛撫する。
その度に頭が真っ白になるような甘い快感がヴェノムの身体を貫いて、火花のように飛び散った。
何度でも訪れる絶頂に震えて、はしたないほどに蕩け切った喘ぎが止めどなく零れ落ちていく。
「あッ……あ、ぁんっ……は、ぁ……ッ……」
淫らな体液は二人の間を滑って互いの境界を曖昧にし、ぐちゅぐちゅとしたその音が互いの聴覚から、五感を、犯す。

「ッ……ヴェノム…ッ」
ロボカイの声に焦りの色と僅かな雑音が混じる。限界が近いのだ。
ヴェノムの身体が達すればその都度、彼の淫らな内壁もぎゅっときつく痙攣し、収縮する。繋がる相手の精を一滴も残さず搾り取ろうとペニスに熱く纏わりつき、動けば動くほどに強く締め付けてくるその反応に、ロボカイの性感を受容する回路はもうオーバーフローしそうだった。
体中を駆け巡る快楽の信号を処理するために、排熱機構は可能な限りの唸りを上げて体内の熱を放出する。震えるヴェノムの両手首を掴む指にはより強く力がこもって、なめらかなその肌に痛いほどの食い込みを残す。
「……き……君も、イッて…………」
もはや意識すら途切れ途切れになりながら、ヴェノムはなんとか懇願する言葉を絞り出した。
「お願い……」

その言葉に触発されるように、ロボカイはピストンのテンポを急速に早め、互いの熱を追い詰める。ヴェノムの嬌声はもはや突き上げられるたびにだらしなく喉から溢れでて、その痴態が電子の脳の興奮を更に熱くさせていった。
「ッ、クソッ…………モウ、出……ッ……」
ロボカイの指が手首を離れ、シーツに縋り付くヴェノムの指に重なり、甘えるように絡みつく。
「ヴェノム…ッ!!」
「あっ、ぁっ……ぁあッ……あ……!!」

熱い精が体内に解き放たれて、果てる。どくん、どくんとペニスが断続的に脈打って、その度に白濁した精液が奥へと注ぎ込まれるのを、内部の感覚が鮮明に伝えてくる。
絡み合う指先はぎゅっと握りこまれて、耳元では子供のような素朴な愛の言葉が何度も何度も、小さく繰り返されている。その響きは、ヴェノムの鼓膜を甘く震わせた。強く、融け落ちるような陶酔感。
……これらの全てが人造物だったとして、何がヒトと違って、それの何が問題だというのだろう。

長く続いた射精の余韻が終わり、下半身からロボカイの熱がずるりと引き抜かれると、支えを失ったヴェノムの身体はシーツの上に崩れ落ちた。
「ぁっ……、は…………」
もう、限界だった。
立て続けに激しいオーガズムに襲われた影響で、聴覚すら鈍くなっているように思える。もう立ち上がる体力が残っていないのは見るまでもない。
「オ……オイ、大丈夫カ……?」
動揺したトーンを帯びた恋人の声に、ヴェノムは気怠い頷きで応える。何か気の利いた返事を返したくとも、ぼんやりした思考の中では言葉がまるで出てこなかった。
とにかく……疲れた。
汗と体液でどろどろの身体をなんとかしたい気持ちもあったが、今は少しでも休む事が何よりも先決に思える。
ヴェノムはぐらりと寝返りをうって、ロボカイの表情を正面から捉えようとした。興奮による紅潮を残したメタリックグリーンの顔色は未だにこちらを案じているのか、なんとも心もとない感情をその平たい顔面に浮かべている。さっきまでの態度とは裏腹なその様子はなんとも滑稽に思えて、ヴェノムはくすりと微笑みを漏らした。
そんなに心配しなくてもいい。
言葉で伝える代わりに鋼鉄の指先に軽く口付けを落とし、ヴェノムは甘い余韻に濡れる瞼を閉じた。

うとうととした眠りの中に飲まれていく途中で、もごもごと独り言を言う恋人の声と共にイリュリアの鐘の音が聞こえた気がした。それが何時を告げる音色なのかはわからないままに。

***

目が覚めた時には、日差しはもう昼間の暖かい色合いに変わっていた。
いったいどのくらいの間眠っていたのだろう?
時計を探そうとゆっくりと視界を巡らせながら、ふと自分のいる場所が記憶の中とは違う部屋へ移っている事に気が付いた。
「……いつの間に……?」
どうやら、ヴェノムが眠っている間に彼の恋人はいろいろと気を利かせていたようだ。
ほぼ気絶するのに等しかったヴェノムの身体を最低限綺麗にし、滅茶苦茶なベッドの上より多少はマシな、リビングのカウチソファへと運んでくれていた……らしい。今頃きっと、汚した寝具の後始末にも追われているのだろう。

全身の怠さにまだ起き上がる気にはなれないまま、裸の身体を包む柔らかなブランケットにそっと頬を寄せる。風邪をひかないようにと、彼がかけてくれたものだろう。まだ貯金の少ない頃に二人で他愛もない会話をしながらこれを選んだ時の事を思い出す。大して質の良い品ではなかったが、日常の思い出がここに刻まれている。そう思うと、胸の奥に淡く暖かい感情が灯るのを感じた。

浴室のほうからガタガタと何かが落ちる音がして、ロボカイの悪態をつく声がそれに続く。どうやら案の定、シーツを干すのに手こずっているようだ。

「オウ、目が覚メタカ?」
洗濯物との格闘を無事終えたらしいロボカイが、リビングに陽気な顔を出す。新しい部屋着に着替えてさっぱりとしたその姿を見ると、朝まで共に痴態を繰り広げていたのが嘘のようだと、ヴェノムには思えた。こういう時だけは機械の身体のタフネスが羨ましくなるものだ。
「すまない……後始末を任せてしまって」
「阿呆、貴様ガ起キルマデ待ッテタラ日ガ暮レテシマウダロウガ!」
そう笑って、ロボカイはヴェノムの横たわるカウチのすぐ傍までスツールを引き寄せて、腰を下ろす。
「……トハイエ、ワシノばってりーモ限界ダカラナ。ソロソロ休マセテモラウゾ」
ロボカイが自らのゆったりした部屋着の下をごそごそと探り、体表を覆うパネルの下のどこかから有線充電用のケーブルを引き出す。スリープモードに入る準備をするのだ。今まで散々(しかも激しく)稼働し続けていたのだ、さすがの最新鋭バッテリーといえども限界に迫っているのは無理もない。

「……ナア」
ふと、こちらを見るロボカイの動きが止まる。
「何だ?」

「ソノ……痛クナカッタカ?ソレ……」
ロボカイが若干の躊躇を見せながら、ケーブルを持っていないほうの手で、手首の付け根を気まずそうに指し示す。
その仕草からヴェノムが己の腕に目をやると、ダークトーンの肌の上にくっきりと機械の指が痕になって、残っていた。他の誰でもない寝台の上の彼が見せた、確かな独占欲と束縛の印。……今朝の激しい熱のやりとりを、この痕だけは継続して宿していた。
それを見ただけで絶頂の感覚が連鎖的に呼び起こされ、甘い波紋にヴェノムの腰がひとりでにがくりと跳ねる。
「……あっ、…………っ」

余韻だけで引き起こされた不随意な身体の反応に、激しい羞恥で全身がさっと熱くなる。
恐る恐るロボカイの顔に視線を移すと、彼もまた驚きによって二つのアイランプを丸くしながら、顔面を赤熱させ、硬直していた。

「……だ、大丈夫だ……こんな程度の痕はすぐに消える。気にしなくてもいい」
気まずさを振り払うように、わざとらしい咳払いをしてみせる。
「いいから、早く君は休め」
「オ、オウ……」
ヴェノムのつっけんどんな指示に素直に従って、ロボカイもおずおずと充電用のコンセントにプラグを差し込む。その頭部からは、音を立てて排熱の蒸気が漏れるのが見えた。……今のやりとりでますますバッテリーが消耗したのではないだろうか?
己の中の羞恥と情けなさがどんどん増大していくのに耐えきれず、ヴェノムは顔が隠れそうなほどブランケットを引き上げる。無駄だとは解っていても、前髪のベールだけではこの感情を覆い隠し切れる気がしなかった。

スリープモードに移行する支度を整えたロボカイは、ブランケットに埋もれるヴェノムの顔を覗き込むように、カウチの背もたれを共有してもたれかかる。
「ソレジャア……オヤスミ、ヴェノム」
優しく落ち着いた声色。
眠る寸前のこんな時にまで、彼はこちらの事を気遣い、想っているのだという事を滲ませる響きだった。
それを受けたヴェノムもブランケットの隙間から青い瞳を覗かせて、パートナーの想いに言葉で応える。
「ああ。……おやすみ」
ふっ、とオレンジ色のアイランプが消灯し、少し遅れて排熱ファンの音が止まる。
あと数時間はこのまま、ロボカイはここで動かずにじっとしているだろう。以前の充電のタイミングを思えばもしかすると半日か、もっと時間がかかるかもしれない。
衣服の下のどこかにはバッテリーの充電状況を示すランプもあった気がするが、ヴェノムは能動的にそれを確認しようとは思わなかった。彼が満足したらその時は勝手にスリープモードを解除して、好きなタイミングで起き出すだろう。それだけだ。

すっかり静かになったロボカイの前髪を、指先でそっと撫でる。
手首に刻まれた甘い痕跡は、二、三日もすれば薄くなって消えるはずだ。しかしあの経験は……忘れられそうにない。次に身体を重ねる時、果たして今までのように冷静でいられるだろうか?いや、そもそも、あんなに声を出してしまって、本当に近隣に聞かれずに済んだのだろうか…………。
ぐるぐると渦を巻く心配事を断ち切るように、ヴェノムの腹部から空腹を知らせる音が響く。
今は答えの出ない事を心配しても仕方がない。まずは起き上がって、遅い一日を始めよう。全てはそれからだ。

前向きな決意を胸に重い体を起こそうとしたヴェノムの動きが、ぎこちなく止まる。
……ごぷ、と音を立てて脚の間をどろりと伝い落ちる、生暖かい白濁液の不快感。一度は綺麗に拭われたはずのそれは、身体の中にまだたっぷりと残存していた。

彼が目覚めた時には、『今後は中に出すのは控えめにしてくれ』、まずはそう伝えなければ。
新たな洗濯物が一枚増えてしまった事に、ヴェノムは頭痛の気配が近づく頭を抱えて、深々と溜息をついた。


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